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アスファルトを駆け抜けるブーツには年期が入っていたが、この時に限っては誰も確かめられやしない。素早く空気に撫でられ踊る靴紐は殆どほどけている。気に掛けてやるでも良かった、けれど今は進行速度の方が重要。上がる呼吸、乱れる脈拍、滲む汗、残り時間。総てが彼の貧弱な肉体を追い詰めてゆく。

憂う背鰭を靡かせて魚は緩やかに、けれど確かに、群青を切り裂いた。剃刀同等の仕事を為した魚の通過後、二分される陽陰。黒に棲む海藻がヒステリックに陽へ刃を向ける。然し白光は動揺するでもなくその攻撃性を受容し、飲み込んだ。ずっと静観していた珊瑚の親子はその夜、悪夢に堕ちた。

逆さまにした深い夜にシュガーを落とすと、瞬く間に拡がり溶けて行き、月を取り巻く星と化した。綺麗な彩りが更に欲しくなるが、シュガーポットはもう空っぽだ。夜は待ち遠しそうに月を揺らしている。星も、薄雲も、次を呼んでいる。其処でミルクを注いでみると、月と朝日が入れ替わった。

タール20mgの煙みたいにキミが僕の中に居着いて離れてくれない。もっと、もっとと恋の火種がとっくに点った依存症の僕は手を伸ばす。笑顔で受け入れてくれているキミの心が段々と灰へ変わってるだなんて知らないまま、僕は何度も、何度でも。

はした金で揃った新顔は、全員この奥歯でデリートした。顎を使う度に口腔を染めた彼等の悲鳴を思い出すや、僕の消化器官が些かばかりの緊張を見せた。大きなゴミ袋の中、輝きを僕に剥がされたモノ共が犇くなかに覗く麒麟の横顔。彼女が守ったものを奪ったばかりの奥歯が、悲鳴を欲している、

尖った友人は活躍しているけれど僕は静かな方。でも僕は丸みを帯びたままでいい。他には真似できない筈だ。時々呼んでくれて暫く一緒に過ごすキミが成長したら、いつか存在すら忘れられているかもしれない。多くの分度器は誰かの人生での出演年数は長くない。地味な役柄は僕にはお似合い。

布団から身を起こす僕は言語を出し尽くした燃え殻と化していた。数日間、出所不明の高揚感のなか寝食忘れて言葉を集めて吐いてを繰り返し続けた反動か。今日は休もう、と燃え殻は黙って横たわるが、きっと長針が幾らか回ればまた己の心に点火をし、瞼の裏に映る虚像にまつわる物語を嘔吐するのだろう。

ノーブランドの白いシャツ、濃灰色の地味なスカート。私はただの通行人。この雑踏では居ない扱いの筈なのに、私をじろじろ見る人が時々出て来て疲れる。私はただの通行人。通行人。通行人。己に言い聞かせる彼女の瞳には一切の感情が灯っていなかった。凝視した者は皆、瞳の闇に飲まれかかった者。

風雨がまぐわり乱れる夜と僕の間に隔たる硝子戸が、キシキシ、軋々、静かに泣いている。今日の天候は随分な乱暴者。此の儘では空に浮いている月が暗雲に隠れるどころか、吹き飛び失せるのではなかろうか。此方の調子は今の天候とよく似ている。実質、あの硝子戸は二面両方から殴られている。

咥え煙草で珈琲にミルクを注いで物思い。
黒と白とが争えば一見黒が勝ちそうなのに
混ぜてみたなら中間色の出来上がり
煙草を灰皿の上に置き、自問自答の始まり始まり
己が属していたいのは白と黒とのどちらだろう
完全なペテン師には成り切れない僕は
灰皿に散らかる色が似合いか。

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